Raptor Migration Symposium 2001
第2回 タカの渡り全国集会 in 千葉我孫子 2001
― サシバの渡りから見えてきたもの ―
- 日 時 2001年11月17日 13:00〜17:00
- 主 催 タカの渡り全国集会2001実行委員会
後 援 タカの渡りネットワーク(仮称) / 信州ワシタカ類渡り調査研究グループ
- 会 場 千葉県我孫子市・我孫子西消防署大会議室
- 基調報告「2000年秋・2001年秋の速報結果取りまとめ」 熊崎詔之(タカ渡りネットワーク(準)事務局・日本野鳥の会岐阜県支部)
- 2000年8月に信州で開かれた第1回タカ渡り全国集会で、全国各地とのリアルタイムでの情報公開(情報交換)及びネットワークの必要性が訴えられた。
- 2000年秋、ネットワークの試行運用が始まった。インターネットを利用しリアルタイムで情報を公開した。2001年秋で2年目にあたる。
- 情報公開により例として白樺峠、金華山、岩間山、甲山、鳴門山への通過時期のつながりが見えてきた。他各地もある程度の流れがリアルタイムで把握ができた。
- 試行運用での白樺峠の情報公開は予想以上に、以西の各調査地の調査の参考に活用されており、結果として調査の活性化が図られた。まさに白樺効果と言えるのではないか。
- ネットワークの位置付けは主に研究者間の連絡支援、調査支援体制などが考えられる。
また運用方法は情報公開(転載不可)のみとし、必要時は各調査団体、個人と連絡をとる事として試行した。
- 各地からの報告
- 神奈川 宮脇佳郎(三浦半島渡り鳥連絡会(仮))
- 三浦半島の中央やや南に位置する標高約200mの武山(たけやま)で2001年9月8日から10月20日まで15日間、一日平均5時間30分調査した。
- (渡りが確認されたのは)2科(9)種737羽(で)その内サシバが702羽と95%を占めた。
- 最多は10月3日でサシバ280羽だった。また(9月23日)はアカハラダカの幼鳥(3羽)も観察された。
- その時期(渡りルートの九州地方で)台風や悪天候もなかったことから、国内で繁殖したことも考えられるのではないだろうか。
- 長野 佐伯元子(信州ワシタカ類渡り調査研究グループ)
- 2001年は9月1日から調査を開始し11月11日まで行った。
- これまで10年間で15種確認されていたが2001年はケアシノスリが確認され16種になった。
- サシバの最高は9月22日で6721羽観察された。
- ハチクマも735羽と最高を記録したほか、この時期としてはそんなに多くないノスリも85羽観察された。
- 今年からは一般観察者用の広場を作り多い日は200人以上が観察に訪れた。
- 岐阜 熊崎詔之(日本野鳥の会岐阜県支部)
- 金華山、水道山を中心に調査を始めて14年になる。金華山は濃尾平野に張りだす岬のような地形になっている。
- これまでのタカの渡り総羽数平均は4000羽前後でその内サシバは全体数の67%である。また2001年は最低の数であった。
- 重点調査として金華山から北へ一直線に5kmごとに5ポイントの地点を設定し定点の通過率を把握した。
- 渡りと日照時間の関連性を考えアメダスのデータに注目した結果、渡ってくるタカは岐阜市の明かり(日照時間)に集められた状況が見えてきた。
- 愛知 藤岡エリ子(伊良湖の渡り鳥を記録する会)
- 27年間調査している。ピークは10月3日から6日である。
- 2000年の10月3日にはサシバがそれまでの最高の6400羽を記録した。
- 2001年は9月24日に1500羽観察しこれまでになった早い記録なので期待された。
- その後ピークはなくトータル7085羽とこれまで最も少ない数であった。
- 7年間ごとの平均の記録をとってみると1976年から2001年の間は個体数が最も少なかった。
- 徳島 萬宮翔平(日本野鳥の会徳島県支部)
- 1991年〜2001年の平均渡り数は毎年約6000羽である。
- 徳島鳴門山と高知の渡りのデータを比較すると違いがある。
- ????年のデータでは鳴門山、高知ともにでは9月24日にピークがあり鳴門山では約2200羽、高知では約1300羽が観察される。
- その後数は減少するが高知では10月4日には2回目のピークがあり約2100羽が観察される。
- このことは高知で10月4日に観察されるのは伊良湖を通過したサシバでないかと推察される。
- 10月下旬からはノスリとハイタカの逆行の渡りが観察される。
- 調査地である鳴門山展望台が撤去されることになっており困っている。
- 京都 西川 猛(日本野鳥の会京都支部)
- 宇治市と滋賀県大津市の境にある岩間山で1980年頃から調査をしている。
- これまでの1日の最高数は1997年の9月21日で4179羽飛んだ。
- 平均では年間約6000羽が観察されている。
- 2001年はHPの白樺峠の情報から9月23日に飛ぶと思われ大勢が訪れた。
- そのため分散して調査に当たった結果、幅をもって飛んでいることがわかった。
- 2001年は10月31日現在で計6291羽が観察され、その内ノスリが1472羽も観察された。10月20日には1日でノスリ564羽が観察された。
- 和歌山 石川正道(滑ヨ西総合環境センター)
- 大阪府との県境加太で、関西国際空港からの委託調査として1991年から2000年の間に4ヶ年調査を実施している。
- 各年とも9月21日から10月11日まで連続21日間調査し、確認したタカは11種、1シーズン平均は1805羽であった。
- 構成比はサシバ60〜70%、ハチクマ10〜20%、ノスリ2〜17%であった。
- サシバ以外の種で年による個体数の変動が大きかったが、これは調査期間の設定のせいと思われる。
- ピークはサシバが10月上旬、ハチクマは9月下旬の傾向がある。
- ノスリは10月上中旬以降と思われる。出現時間帯は午前10時〜11時台が最も多い。
- 広島 内海貴朋(広島タカの渡り研究会)
- 研究会は2000年3月に発足したが広島県では野鳥の会を中心に20年近く調査をしている。
- ハチクマは春も秋も渡りが見られるが今回はサシバについて報告する。
- 観察ポイントは瀬戸内沿岸部が多い。
- 数は少ないが10月上旬から中旬にかけてサシバは渡っていく。
- 内陸部ではごく少数しか観察されない。
- 葉田竜王山では1996年以降、1日あたり100羽以上観察されず、広島県内のサシバの繁殖状況は悪化していると思われる。
- なお秋に朝鮮半島から日本に渡ってきて東に渡り、春にはその逆を渡るハイタカ属にも注目している。
- 長崎 馬田勝義(日本野鳥の会長崎県支部)
- 佐世保市烏帽子岳で調査している。
- 通過個体の97%はアカハラダカで3%がハチクマである。
- 2001年は31900羽のアカハラダカが確認された。
- ハチクマは878羽だったが例年約1000羽が観察され、2001年のピークは9月25日だった。
- 8月下旬の平均気温によって数を予想する試みをしている。
- 9月10日までの個体数が8月下旬の気温が低ければ多く、高ければ少ないと予想した。
- 今年は予想どうりには行かなかった。しかし今後も試みていく。
- 屋久島 河西 恒(屋久島タカの渡り研究会)
- 1997年〜調査をしているが調査日数に差がある。
- 2000年は22日間の長期調査を実施し、10月10日には5811羽のサシバを確認した。
- 2001年は10月10日〜10月14日まで調査し、約3400羽のサシバを確認した。
- 10月10日〜15日にピークがあるようだ。
- 海へ出る場所は定まらず、海に出てまた戻って来る個体もある。
- 島の西と東に飛翔ルートがあるようだ。
- 海岸線から山がせり上がり頂上は標高2000m近くになるので、内陸部を通っているとは考えにくいがよくわからない。
- 東南アジア 新谷保徳(アジア猛禽類渡り調査プロジェクト)
- アジア各地と情報交換をしながら調査をしている。
- アカハラダカは秋に、西九州、台湾、フィリピン、ボルネオ、スラウエシを通過するルートとタイ、マレー、ジャワ、スマトラのルートが考えられる。秋は台湾を通過。
- サシバは九州、フィリピン、ボルネオルートとロシア、沿海州、中国東南部?、タイ南部?、マレー半島、インドネシアのルートが考えられるが数は少ない?春はその逆?。
- ハチクマは福江島から上海付近?、タイ、マレー半島(10月上旬通過)、スマトラ、ジャワを飛ぶと考えられる。
- また春にマラッカ海峡を戻ってくるハチクマが多数観察されている。
- 課題としてフィリピンでの観察者がいないことである。
- 資金面や識別力などの問題点を解決し、現地での調査体制を確立したい。
- 埼玉 市川和男(天覧山タカ渡り観察グループ)
- 天覧山で調査しているが他の調査地のように数は多くない。
- 北東から来て南西または南南西に飛んでいく。
- 山梨県方向に飛んでいくと思われるピークは9月25日〜28日と10月上旬の2回ある。
- 生態報告「CCDカメラによる生態解析ー造巣期から巣立ちまでー」 篠原喜運(信州猛禽類調査グループ)
- 識別講座「サシバなど飛翔猛禽類のプロ用識別ポイント」 久野公啓(信州ワシタカ類渡り調査研究グループ)
- パネルディスカッション「サシバの渡りから見えてきたもの」 座長:植松晃岳(野生生物資料情報室)
助言者:遠藤孝一(日本オオタカネットワーク)・百瀬浩(国土技術政策総合研究所)
パネリスト:市川和男(天覧山タカ観察グループ)・川田 隆(バードコーデイネーター)・久野公啓(信州ワシタカ類渡り調査研究グループ)・熊崎詔之(日本野鳥の会岐阜県支部)・新谷保徳(アジア猛禽類渡り調査プロジェクト)
- 渡り調査と生息数把握、コース
- 全国各地で渡りの調査は行われており、そのデータはタカの数を把握するための貴重な資料となる。(百瀬)
- サシバの数が減ってきていることが気掛かりだ。静岡県、栃木県では繁殖数が激減した。宇都宮ではかつて2km四方に10つがいいたが現在はいない。(遠藤、川田)
- 生息地周辺の開発が進んでいることが原因と考えられるが、未開発地でも減っているため、他にも原因があるのではないのか。
- 繁殖地と越冬地両方の調査がこれからは必要ではないだろうか。(遠藤)
- 里山でのサシバの繁殖や生息の情報が欲しい(市川)
- 渡りのカウントを見ると減っている地点とそうでない地点がある。白樺峠では減っていない。逆に増えている。しかし伊良湖では30年近く調査してきて減ってきている。(植松)
- 天候、気温、風などで飛ぶコースが変わっている可能性もあり、数によってサシバの繁殖について言及するのにはまだデータ不足だ。少なくとも30年くらいは必要ではないだろうか。(久野)
- 海上を飛ぶなど観察できない個体も多いはずだ。宮崎で自衛隊レーダーが海上を飛ぶ40000羽近くのサシバを捕らえた例があり、数やコースはまだよくわからないのではないのか。(会場より)
- 各地点での確認日の相違から日本海側で繁殖した個体は信州白樺峠、岐阜金華山、京都甲山、徳島鳴門山を通り、太平洋側で繁殖した個体が神奈川、静岡、愛知伊良湖を通るのではないだろうか。(新谷)
- 春に伊良湖を通過したサシバが長野北部で繁殖した。同じサシバでも春と秋で渡りのコースが違うこともあるのではないだろうか。(植松)
- 調査の課題
- 関東よりも北の情報が少ないので北で調査地点を増やしたい。(市川)
- フィリピンなど海外での調査をぜひ充実させたい。マレーシアでは始まっている。
- 春の渡り調査もぜひ各地で行ってほしい。(新谷)
- サシバの生息数を把握するために、九州の南部で九州のメンバーによる広域での調査を是非実施していただきたい。(川田?)
- 調査に携わる若い人が少ない。ぜひ次世代を育てて欲しい。(川田、久野)
- これからの調査方法
- 標識装着、カラーリング、タグ、リボン、染色、発信機、衛星追跡などの方法がある。(植松)
- 発信機をつけたハチクマを2001年9月に長野県白樺峠から長崎県福江島まで追跡し信号をキャッチした。約1000kmを3日半で飛んだことになる。(久野)
- 発信機調査は有効だが、発信の面では電波法の規制もあり問題点がある。(植松)
- 東京大学では現在でも衛星追跡による調査を継続している。(百瀬)
- 各地でいろんな標識がなされているがその情報を出して欲しい。タグがついた個体を何回か見ているが、だれがつけたかわからない(川田)
- 長野県では石垣島での発信機装着個体を4年連続で確認しており、巣も見つけてある。バッテリーは切れているが発信機本体とアンテナが識別の役目を果たしている。その意味で電波が終えなくても有効ではないだろうか。(植松)
- 衛星追跡用の発信機は1台35万円する。さらに解析は1回3000円かかるので、3ヵ月バッテリーが持ったとしても1羽で50〜60万円かかる。ソーラーバッテリーのような半永久的なものならば費用は莫大になる。(遠藤)
- アジアのメンバーにとって、衛星追跡でタカが自国を通過することが判明したなら、調査が盛り上がることになり、是非とも実現させたい。(新谷)
- ネットワークについて
- ネットワークに大勢の団体、個人が参加すると同時に協力者が欲しい。(熊崎)
- 白樺峠の情報をもとに各地で飛ぶ日が推測できるように、ネットワークで情報を流すことは調査にとってとても有効だ。(熊崎)
- 民間、研究者、行政、コンサルなど垣根を越えて情報を共有して調査をすることが必要ではないだろうか。(植松)
Copyright (C) 1975- タカの渡り全国ネットワーク / HMNJ(Hawk Migration Network of Japan) All Rights Reserved.